全国難民弁護団連絡会議(全難連)の代表世話人である渡邉彰悟弁護士にお話をうかがいました。
UNHCRが、世界難民の日(6月20日)に発表した「グローバルトレンド2014」に関連し、全難連が出した声明を中心にお聞きしています(約30分)。
内容は、
全難連の発表した声明のポイント
難民申請をめぐる「偽装」、「悪用」といった言葉について
移民政策と難民制度が混在されている問題点
出入国管理政策懇談会のもとに設置された、難民認定制度に関する専門部会の提言について
過去最悪の難民数(約6000万人)に対応する新たなシステムづくりについて
―などとなっています。
ぜひお聴きください!
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声明の全文は以下の通りです。
「世界難民の日」2015
UNHCRグロバール・トレンド2014の発表に関連した全難連声明
2015年6月20日
全国難民弁護団連絡会議
代表世話人 弁護士 渡邉彰悟
事務局長 弁護士 難波 満
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の『Global Trends2014:World At War』(*1)によれば、2014年一年間に新たに約1,390万人(前年比約320万人増)が迫害や紛争等を理由に避難を余儀なくされ、2014年年末時点での避難民総数は過去最悪の約5,950万人(前年比約830万人増)となった。新たな避難民のうち、約1,100万人が国内での避難を余儀なくされ、約290万人が国境を越えて難民/庇護希望者となった。
2014年、難民条約締約国又はUNHCRにおいて難民の地位の申請をした者の数は約166万人(*2)(各国認定機関及びUNHCRへの申請数の合計)(前年比54%増)であり、うち約147万人が一次申請であった。同年の難民認定者数は約278,000人(平均難民認定率は約27%)、補完的保護まで含めた保護数は約615,000人(平均保護率は約59%)であった(*3)。
難民申請を最も多く受けた国はロシア(約274,700人)であり、ドイツ(約173,100人)、米国(約121,200人)がそれに続いた。
日本では、2014年、過去最高の5,000人(前年比約53%増)、世界の年間難民申請数(一次手続)の0.3%が難民認定申請をした。その一方で、同年の日本の難民認定者数は11人(難民認定率は約0.3%)であったが、これは世界の難民認定数合計の0.004%であった。申請数の比率に比べて認定数のそれは,ほぼ100分の1という驚くべきレベルにある。
日本政府は、日本で難民認定者数が極端に少ないとの指摘に対し、難民条約の定義にのっとり「慎重な適正な手続きを経た上で個別に判断した結果、余り数が出ていないというのが実情である」こと、これまでの多かったミャンマー出身者の難民認定が減ったこと、社会情勢が悪化したわけではないトルコ、スリランカ、ベトナムなどからの難民申請者数が増えていることなどと述べている(*4)。一部の報道にあるように、あたかも日本には難民として庇護するべき人たちが来ておらず、「偽装」や「悪用」が増えているかのような印象を与え
る。
しかし、上記のとおり難民/庇護希望者数の増加は世界的な傾向であるほか、世界では依然として多くのミャンマー難民が保護されていること(この中には当然ロヒンギャを含めた少数民族問題がある)(*5)、これまで日本でトルコ出身者の難民認定例がなく、スリランカやネパールについても過去1件ずつしかないという事実に鑑みると(*6)、日本の極度の低水準の難民認定の理由としては、「偽装」や「悪用」の増加というよりは、そもそも難民条約の解釈基準が間違っていることや、適正な手続きが行われていないことが考えられる。
特にほとんどの不認定理由に表現されている「個別的に把握」されているかどうかによって判断したり、出身国情報の十分な分析のないままに客観的証拠を要求する等,難民申請者にとって高いハードルとなっていることが大きな障害となっている。
日本は難民条約締約国としての国際的な責務を果たしているとは言い難い状況にある。
2014年12月に出入国管理政策懇談会のもとに設置された難民認定制度に関する専門部会において今後の難民認定制度のあり方についての報告がなされた。難民認定判断の規範・基準についても、これまでのように法的拘束力がないことのみを理由にUNHCR文書や国際的な実務例を無視するのではなく、「UNHCRが発行する諸文書、国際的な実務先例及び学術研究の成果なども参照」することなどの一定の提言がなされた(*7)。この難民専門部会の報告の内容は、難民認定制度の公正性・専門性・効率性の追求のバランスをとりながら、今後の難民
認定制度の運用および新たな出入国管理基本計画の策定において生かされる必要がある。
当連絡会議は、あらためて、単に「偽装」や「濫用」の排除の方策が議論されるのではなく、守られるべき難民を守るとの視点から、難民法の国際的な水準をふまえた包括的な難民認定制度を実現するための抜本的な方策が実現されるよう求めるとともに、日本において真に難民条約の履行が確保され難民条約締約国としての国際的責務を果たすことができるよう、難民を支援する関係団体と協力しながら、現行の日本の難民認定制度の問題点の抜本的な改善に向けての取組をしていく所存である。
以上
*1 報告書は、UNHCRウェブページ
(http://www.unhcr.org/pages/49c3646c4d6.html)で見ることができる。
*2 内訳は、条約締約国の認定機関約140万人、UNHCR約25万人、政府とUNHCRの共同機関約1万人(報告書27頁)。
*3 ロシアによるウクライナ難民への一時庇護(難民の地位の認定ではない)を除くと、平均難民認定率は35%、平均保護率は46%となり、前年とおおよそ同レベルとなっている(報告書33頁)。
*4 平成27年4月14日の参議院法務委員会における井上宏法務省入国管理局長の発言。
*5 過去5年のミャンマー出身者の年別の難民認定数/認定率は、16,244人/87.4%(2014)、19,206人/90.1%(2013)、14,108人/87.8%(2012)、14,438人/83.4%(2011)、24,068人/93.4%(2010)と高いレベルを維持している(数字は、UNHCRによるRSDを含む)。
*6 トルコ出身者について2014年の世界合計の数値を見ると、難民認定数は1,331人(難民認定率は17.3%)、補完的保護を含めた保護数は1,849人(保護率は24.1%)であり、スリランカ出身者は、難民認定数3,679人(難民認定率は30.1%)、保護数4,164人(保護率は34.1%)、また、ネパール出身者については、難民認定数602人(難民認定率は21.3%)、保護数680人(保護率は24.9%)であった。一方、日本では、2014年にこれらの国出身者の難民認定はなかった。
*7 第6次出入国管理政策懇談会・難民認定制度に関する専門部会「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」2014年12月。